えひめの家を考えるプロジェクト
1.健全なる愛媛の家庭
農業を営む家の光景(昭和40年代)
幼き頃の記憶を辿りながら、農業を営む家の標準的(?)な姿・特徴を列挙してみよう。
(1).リビングルーム
そのような横文字で表す程上等なものではないが....。
・メインの照明は裸電球である。
・カモ井のハイトリガミ(ねばねばしたリボン状の蝿取り紙)がその横に垂れ下がっている。
・そのハイトリガミは天井に画鋲で止めてある。
・そのハイトリガミには本来の捕獲目的である蝿はもちろんのこと、大小様々な蛾(が)、カナブン、蚊なども引っ掛かっている。まるで、昆虫博物館である。
・そのハイトリガミの横には天然の蝿取装置である「蜘蛛の巣」が張っている。
・棕櫚(シュロ)の葉っぱで作ったハエタタキが畳の上にころがっている。
・年がら年中、部屋の中央部に堀炬燵(ほりごたつ)が存在する。
・その掘炬燵は元々は「囲炉裏(いろり)」であった。よってリビングルームの天井板は真っ黒である。
・その炬燵の上には冬場は県果「ミカン」が常駐している。
・コンセントは裸電球用ソケットにねじ込むアダプタからタコ足供給している。
・テレビは高橋英樹の推薦する「オートカラー太陽」(日本電気製)である。
(2).ダイニングルーム
・リビングルームと区別するものではない。(同一居住空間を指す。)
(3).キッチン
・調理用の加熱器具は唯一「竈(かまど)」が存在するのみである。
・着火には999マッチあるいは桃印マッチを用いる。
・種火は新聞紙あるいは杉の落ち葉に着火する。
・主燃料である薪(たきぎ)と杉の落ち葉は、冬場に掻き集めて、キッチンと壁を隔てて戸外の軒下に積み上げておく。
・キッチンも、リビング同様、天井はすすけて真っ黒になっている。
・冬場には、竈(かまど)の中に豆炭がころがり、赤々と燃えている。これは寝床で暖をとるための行火(あんか)に用いるものである。
・床は土足である。(というより土である。)
・部屋の隅には大小とりどりの瓶がころがり、葉漬け、梅干し、ラッキョウ、味噌などが漬け込まれている。
・流しはコンクリート製タイル貼り仕上げである。
・勿論、温水装置などあるはずもない。
・水は近くの小川から引いている。
・水道代は地区(部落)の共益金のみで従量課金などという概念は存在しない。
・排水は近くのミゾに垂れ流しである。
・洗剤は「ママレモン」「ホーミング」の2本立てである。
・なぜか流し上部にカゴが吊るしてあり、歯磨き道具一式が収められている。
(洗面所と兼用)
・なぜかその下には「ミカンの網タイツ」にくるまったレモン石鹸が吊るされている。
(4).バスルーム
・メインの建家とは別棟になっている。よって風呂に行くためには一旦サンダルあるいは小判草履を履かねばならない。
・五右衛門風呂である。浮力と戦いながら板にうまく乗らないとひっくり返ってしまう。
・温度調節(加熱)をするためには「薪くべて〜!」と窓を開けて叫ばなければならない。
・加熱が始まると、バスルーム内は煙と湯気が充満し視界が急に悪くなる。
・冬場になると湯気が天井からポタリと背中に落ち、ドリフターズの気分になる。
・身体を擦る道具は「ヘチマ」である。
・洗髪には「石鹸」を用いる。(お歳暮・お中元の時期にはエメロンシャンプーが出現する。)
(5).ベッドルーム
・ベッドなどあるわけがない。煎餅布団が万年床状態で狭い部屋に敷き詰めてある。
・「夜の生活はどうすんの?」と余計な心配をしそうなほど人口密度が高い。
・冬場は、小学校高学年以上の子供の布団の中には蒲鉾型をした行火(あんか)が挿入されている。
小学校低学年以下の子供の布団の中には豆炭アンカが挿入されている。
・枕はモミ殻入り枕である。
(6).テラス
・日本語に訳すと「縁側」かぁ?
(7).ベランダ
・そんなもんあるわけないじゃない!だって平屋だもん。
(8).インテリア
・棚の上には恵比須像(大黒像)が座っている。
・玄関先には招き猫が手をあげて立っている。
・玄関先には、農協でもらったカレンダーが懸けられている。
・柱には、男児/女児2体の愛らしい姿が描かれている「わらべ人形」の日めくりが懸けられている。
(9).エクステリア
・門柱は存在しない。
・外構は存在しない。
・庭には牛が繋いである。その横を鶏が草をついばみながら歩いている。
(10).情報通信機器
・電話は隣の家(推定距離:400m)から呼び出してもらう。
・スピーカから流れる町内放送は貴重な情報源である。
6:00、12:00、18:00の区切りの時間にはサイレンが鳴り響く。
・新聞は郵便配達が届けてくれる。(よって朝刊は昼以降にしか読む事ができない。)
・テレビは愛媛県なのになぜか大分放送、NHK大分しか映らない。
・テレビのアンテナは共同アンテナである。
・FM放送の電波がなぜか届かない。76MHz〜90MHzまで全て「砂の音」を放送している。
(11).トイレ
・もちろん汲み取り式「ぼっとん便所」である。
・ケツを拭くのには「チリ紙」を用いる。
・床は板張りもしくは竹網である。竹網の場合、シースルーでありちょっと恐い。(匂いも倍増しているような気がする。)
・ドアには鍵がついていない。 木製止め金のみなので、用を足している最中にフルオープンされることもしばしばである。
・前部には金隠し(小便飛散防止板)が斜め60°の角度で配備されている。
・投下口(?)から下を見下ろすと何やら白いもの(蝿の子)が犇めきあっている..。
・農家にとって貴重な肥料源であり、定期的に人出汲上げ(肥汲み)・運搬(肥かつぎ)・散布(肥撒き)作業を要する。
(12).収納庫
・「ダヤ(駄屋)」と呼ばれる非居住建家が隣接する。
・そのダヤの中には「オクラ(お蔵)」が存在する。
・オクラの中には、ポンジュース1ダースが常に貯蔵されている。
・玄関先には地下収納庫「芋ツボ」が存在する。(サツマイモの種芋が籾殻にまみれて貯蔵されている。)
2.民俗学的に追跡する
ファッション(衣服)
(1).襦袢系
ジバン
ジワン
タフジバン
タフというのは楮(こうぞ)を原料とし、その繊維で織った布。
新宮村では、重いものを担ぐときに「タフのふんどし一かきあるぞ」と言って担ぐという。
ツツジバン
(2).袴系
イガバカマ
(3).半纏系
ハンテン(半纏)
サシコバンテン
ポンジ/ポンシ/ポンシン
袖無しの半纏
ドンザ
筒袖、長い裾、厚い綿入れ
ドウブク(道服)
筒袖
デンチ
袖無しの綿入れ
(4).股引系
モモヒキ(股引)
パチ
パッチ
★確かにワシが小学校の頃は、長ズボンの下に「パッチ」をはきよった。「パッチ」という省略形ではのうて、「じいやんパッチ」と呼びよった。
(5).エプロン系
マエダレ(前垂れ)
マエカケ(前掛け)
(6).バンダナ系
ハチマキ(鉢巻)
ホオカムリ(頬被り)
ネエサンカブリ(姉さん被り)
(7).腹巻系
エドハラ(江戸腹)
(8).シューズ系
アシナカ(足半)
ゾウリ/ジョウリ(草履)
ワラジ(草鞋)
ヨロズ
休日など普通の日以外に履く。前にカエシバナオ(返し鼻緒)、後ろにはヨコが付いている。
ユキグツ(雪靴)
ユキワ(雪輪)
ハナモジ
雪道用の履物で、草鞋に藁を巻き付けたもの。
ネジカケ
雪道用の履物で、草鞋に藁を巻き付けたもの。
(9).手足装飾系
キャハン(脚絆)
ウデヌキ(腕抜き)
テオイ
(10).レインコート系
セミノ(背蓑)
田に入るときの防暑用。竹とすげで編む。
(11).帽子系
タクラバチ
笠の一種。竹の皮で作る。
トンギリガサ
すげで編んだ笠。
(12).??
ククリバチ
尻割れで足首を紐で縛る
ドウギ(胴着)
ファッション(ヘアスタイル)
オショボ
前髪を額で切り揃えて、その他はうなじで切り揃える。
マルアゲ(丸髷)
タブサ
女児の結髪[城川町]
ワンカズキ
男児の結髪[城川町]
チャセン(茶筅)
後ろ髪を根元で止める。
ケンボウズ
フタツアゲ
チョンカケマゲ
サムライマゲ(侍髷)
|