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こたろう博物学研究所
探訪記録:20000429

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石墨山(面河村/久万町/川内町)登山【平成12年(2000)4月29日】


「ゴールデンウィークだし、ブナなんかの自然林でも見にどっか行かない?」
と曽我部さんを誘う。
「明日からの三連休は初日だけが晴れで、後は曇ったり雨が降ったりらしいよ」
金曜日の晩は同僚の送別会があり、明日は大人しく自宅で過ごそうかなどとも考えてたので、
「うん、後半の連休にしましょうよ。前半は天気も悪そうだし。また電話で連絡するよ。それまでにはコースを選んでおくから」

 会社がひけてから送別会に出向く。何となく飲みたい気分でもなかったし、金欠病なのでさっさと切り上げ、微酔い気分で21:30頃自宅に帰りつく。

 飲み会の席でも話は上の空で、コース選びのことを始終考えていた。自宅に帰り、ほっとした気分で、今一度行く場所選びの候補地を頭の中で整理する。
・ゴールデンウィーク突入ということで混雑した道は走りたくない。即ち松山市近郊であること。
・ブナ、ナラなどの自然林(原生林)が観察できること。
・山頂からの景観に富むこと。
・登山口から山頂に到着するまでの時間が多くて2時間であること。
という厳しい条件をクリアできる山。
それに加えて、僕自身に課する条件として、「自分が登ったことが無い山」というのが今回の山選びのポイント。本来ならばナビゲータとしてちゃんと道案内できる山を選ぶべきだが、今は色んな所を登ってみたいという衝動にかられている時期でもあり、なんとか5番目の条件もクリアしたい。

 皿ヶ嶺高縄山明神ヶ森辺りを候補地に選んではみたものの、5番目の条件から外れてしまう....。何とも自己中心的。「そういや石墨山なんかはいいんじゃないかなぁ」...と手元にある本を眺めてみる。「山頂付近にブナの天然林..」うん、ここがいい。全条件をクリアできる。
 早速、天気予報をチェックする。幸いにも明日の天気は良さそうだ。善は急げ、思い付いたが吉日だ。時計は22:00を超えようとしていたが、曽我部さんに電話をする。



 8:00 曽我部さんが自宅まで車で迎えに来てくれる。

 重信川沿いの土手を東に進み、県道伊予川内線へ。昼食用の食料調達のため、途中でコンビニに立ち寄る。だがこの店にはビールが置いて無い。この道は本当にビールを探すのが一苦労である。仕方が無いので旧11号線へ。 若干遠回りにはなったが、買うべき物も買って、川内町内の旧街道を進む。この街はどことなく風情が漂う。道が狭いのが難点だが、それは昔の姿を止めている証拠でもある。道端には幅1mにも満たない程の小川が涼しそうに流れている。

 桜三里の登り口から国道494号線へと右折。この道は相変わらずの九十九折れの道。離合もままならない細道をゆっくりとしたペースで進む。所々道路補修工事が行われている。時間帯通行制限などくらってしまうと出鼻をくじかれてしまう....とヒヤヒヤしたが、幸いにも通行規制はしていなかった。雇用確保的意味合いの道路工事なのか、いつまで経っても同じ場所を補修しているような気がして止まない。しかも働く人々は老人ばかり。

 そんなことを考えながら鬱蒼とした木々に包まれた「名ばかりの国道」を進む。所々ヤマツツジが岩陰から鮮やかなピンク色の花を覗かせている。まだ満開の季節には遠いようである。

 9:40「唐岬の滝」遊歩道入口に到着。登山口はヘアピンカーブのやや上側にある。登山口周辺には桜が数本植わっているのだが、高度が高いせいか、満開は過ぎたものの未だ多くの花を携え、道路にの多くの花びらが舞い散らしている。



 道路脇の駐車場に車を停めて登山準備に移ろうとしたとき、隣に停まっていた車の中から、サングラスをかけ、何だか恐そうな人が突然声をかけてくる。
「いせきさんですよね?」
「えっ?誰だ?」と一瞬たじろいでしまう。
よくよく見てみれば、1月22日の面木山登山のときに、雪道の中で四苦八苦しながら一緒に山頂を目指した菅野さんではないか。
「あれぇ、奇遇ですね。また御一緒とは...」
間もなく奥さんも姿を見せる。
「御久し振りです」
と挨拶を交わす。


 9:45登山開始。菅野さん夫妻に、「それじゃ一足お先に出発します」と一声かけてゆっくりと足を運び始める。登り口をぱっと見ると「悪路ではないか」との不安がよぎるが、登り始めるとすぐに要らぬ心配であったことに気付く。非常に歩きやすい道が続いている。


 10:16 割石峠到着。恐らくここが「割石峠」と呼ばれる場所だと思うのだが、道標があるわけでもなく、確認はとれない。南下方には小川のせせらぎが聞こえる。水場として利用できそうだ。


 10:20 東温高校小屋「石望山荘」前に到着。ひょっとしてここが割石峠か。南東方向が明るく開けており、眺望を楽しめるのではと、山荘前を通り、一段小高くなっているところに上がって一息つく。

 余り休んでいてはバテてしまうと、煙草を一本吸い終わると登山再開に移る。何気なく南へと続く道へと進んでしまう。笹が刈り込んであるし、赤テープも目に入ったので、何一つ疑い無く進んでしまう。

 10:21林道に出る。当初の予定では、山荘のところから尾根道に出るはずであった。山菜採りに訪れた人達の姿が目に入る。挨拶がてら、登山路を確認すると、
「林道を突き当たるまで行けばいい」
と教えてくれる。しかし、どうしても「尾根道」が気にかかる。右手方向を気にしながら林道を進む。途中で一回、右手に赤テープを確認できた。しかし、「まあ、尾根筋に並行して林道が走っているんだろう。先程の人達のアドバイスも無にしてはいけないしな」と林道を進む。

 途中、「やっぱりどうも怪しい」と、林道からヒノキ植林帯の中へと入って尾根道との合流を目指す。しかし、行けども行けども尾根筋と合流せず、植林帯の中をただひたすら方向感覚を信じ、そして人の踏み跡をトレースしながら進んでいく。目印となるものは全く無い。赤テープのかけらでも見えれば安心感もあるのだが。
 途中沢と出会う。澄みきった混じり気の無い水をコップに掬って飲み干す。疲れた身体が癒えるような気がする。腰を下ろしてゆっくりと休んだ後、方角的には石墨山目指して進んでいたのだが、方角としては北方向になる沢沿いに上がることにする。最悪は引き返せば良いと腹を括って。

 しかし、間もなく雑木帯に出て、踏み跡らしきものは途絶えてしまう。行く手もやかましそうに小枝が張りつめ、やぶこぎ必至の状態である。「参った」と上を仰ぎ見ると、ふと右手の急斜面上に稜線らしきものが見えるではないか。稜線に出れば何とかなるかもしれないと、木の根元を掴みながら登っていくと、まさに登山道らしき登山道が尾根沿いにすっと延びているではないか。本来の道にやっと出会えて本当にほっとした。道に迷って目的地に到達不可という結果に終わったのでは、コース選定をした手前、僕の立場が無い。



 左手にヒノキの植林、右手に雑木林の登山道を安堵感を覚えながら上っていく。間もなく急坂に差し掛かる。足元の土は湿っていて、所々足がずるっと滑る。注意深く、ゆっくりゆっくりと進んでいく。この急坂の距離は半端ではない。忽ち息があがる。

 11:20、やっとの思いで肩部に辿りつくと、案の定、菅野さん夫妻とそしてもう一組の老夫妻が腰を下ろして休息している。
「どこへ寄り道してたの?僕等、花を撮影しながらゆっくりゆっくり登ってきたんで、先に着いてるやろなぁって話してたのに...」
「いやぁ林道の方を進んでしまって....ちょっと遠回りになったんですよ」
「知っとって行ったの?」
「沢で水を汲もうと...」などと取ってつけたような嘘が通用するわけもなく、今までの経過を話す。
「僕等も最初は林道の終点まで行って引き返したんよね」
そうか。間違えたのは僕等だけではないのか、と妙に安心感を覚える。

 リュックを下ろして、一息つくことにする。この肩部からの眺めは最高だ。南には久万町直瀬の集落と、水を張ったばかりの水田が見える。西方向には陣が森皿ヶ嶺の連峰とその下には道後平野が。北方には川内町内そしてその背後には福見山・明神ヶ森・東三方ヶ森が見える。そして白猪峠へと続くなだらかな笹尾根。
 こんな景色の中に座り込んでいたら時間を忘れてしまいそうだ。名残は惜しいが、また下山時にゆっくり見ることとし、10分ほど休息した後、登山を再開。



 少し勾配のある坂を登ればあとは比較的平坦な尾根道が続く。次第に道の取り巻きは笹原からブナの自然林と移る。噂通り見事な林だ。一本一本が逞しく枝を横に伸ばし、長い歳月風雪に耐え生き長らえてきたことを誇っているかのように悠然と聳えている。
「懐かしいなぁ。ウチの実家の裏側はまさにこんな林だったよ」
と曽我部さんが声を弾ませている。


 途中、岩場が1ヶ所あるが、然程危ないわけでもない。岩場の上からは東を臨めば、堂ヶ森・二の森・西の冠などの石鎚山塊がどっしりと腰を下ろしている。ここも眺めは最高だ。

 ブナ原生林に囲まれた登山道を更に進む。
 12:00、正午を知らせるチャイムの音と同時に山頂に到着。



 今日は一人での登山でないせいもあって、登山活動を開始してから最高のデリシャスな食事。ローソンで調達した冷凍鍋焼うどん、とんこつラーメンである。一品あたり380円だから贅沢だ...。早速調理を開始する。
 ビールも美味い!いつもは発泡酒だが、今日はアサヒスーパードライだ。こちらも贅沢の極みである。(何と貧乏臭いことを言ってるのだろう)

 それはさておき標高1456mの山頂からの眺めは最高だ。周りを遮るものは一つもない。360度のパノラマが広がっている。面木山、三ヶ森、堂ヶ森、岩黒山、筒上山、中津明神山、天狗高原、大川嶺、大野ヶ原、.....と数え上げればきりがない。実に壮大な風景だ。



 13:15、一時間強と比較的長い山頂の一時を終え、下山開始。

 13:45、肩部に到着。風景をカメラに収めて、一息ついて再出発。
急坂を慎重な足取りで降りる。雨に濡れた登山道は非常に滑りやすくなっている。

 尾根道は非常に明瞭で、決して見失うことはない。登るときに迷ったのがウソのようである。
やがて植林帯に入ると、来るときに確かに歩いた場所が右手に見える。何と20mぐらいしか離れていなかったのだ。山菜採りのオジさん達を恨んでも仕方ないのだが、恨めしくてたまらなくなる。

 14:15、東温高校石望山荘前に到着。そうか、この立て看板をすっかり見落としていた。何気なく笹を刈り込んだ林道へと向かう道を進んでしまったのが失策だった。僕等のように見落とす人も多分多いのだろうと、林道脇の杉の木に赤テープで矢印を貼り付けておく。

 ゆっくりと、辺りの景色を眺めながら降りていく。途中、割石峠の名の由来を示すような、真ん中で真っ二つに割れた丸い巨石が登山道脇にひっそりと佇んでいるのを発見。

 それと、頂上で菅野さん夫妻から戴いた「花情報」通り、ハルトラノオ(別名イロハソウ。Polygonum tenuicaule)を確認することもできた。うん、これでまた一つ花の名前を覚えることができた。満足、満足。

 下りはあっと言う間に降り切った感じである。14:30、登山口に到着。



 折角来たのだから唐岬の滝も見ておきたい。
 車に乗り込んで、唐岬の滝へと向かう林道を進む。だが、50mぐらい下りた沢のところで道路が崩落しており、通行不可。止む無く沢の辺のちょっとした広場のところに車を停めて歩き始める。広場を過ぎ、植林地帯を50mほど下りると「唐岬の滝250m」と書かれた標識が立っている。そこを右手に折れしばらく歩くと右手から滝の落下音が聞こえてくる。大きな岩肌を水が流れるように落ちているのが見える。傍らの岩にツツジのピンク色がほんのりと彩りを添えている。

 景色ばかりに捕われていてはいけない。足元を見ると、ジロボウエンゴサク(次郎坊延胡索、Corydalis Decumbens)のピンク色の花が咲いている。

 滝壷まで降りると、ケヤキの倒木が行く手を遮る。折角来たので倒木の上を跨ぎ、滝の直下まで行ってみる。水のしたたる方向を見上げる。高さ約114mの及ぶ岩盤がそそり立つ様は圧巻だ。
  「瀑五段 一段毎の 紅葉かな」
と漱石も詠ったように、秋に来ても最高だろうが、この季節も若葉が芽吹いて心地よい色に染まっている。
 「綺麗な滝なのに見る人が訪れないのは勿体無いね」
などと話していたのだが、戻りの山道では10人弱の人とすれ違う。余計な心配など無用で、やはり知っている人は知っているものだ。時計の針は15:15。比較的遅い時間なのに、結構観光に訪れる人が多いのだ。



 山に登って、おまけに滝も見て、非常に有意義な一日であった。


【同行者】曽我部さん
【コースタイム】
[往路] 唐岬の滝登山口→(20分)→割石峠→(60分)→肩部→(30分)→石墨山
[復路] 石墨山→(30分)→肩部→(30分)→割石峠→(15分)→唐岬の滝登山口
 

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